Our Focus

細胞を制御して難病を克服する

Drug Discovery

全遺伝子レベルの表現型創薬

背景:創薬の難化

現在、新薬の研究開発には2000億円以上の費用と約13年の期間がかかると言われています。新薬開発の成功確率も2~3万分の1であり、難病であるほどその費用や期間も増加する傾向にあるとされています。そのような状況で、創薬アプローチとして表現型創薬注1が注目を集めており、特に全遺伝子発現プロファイルを表現型とみなし、薬剤の細胞への効果を網羅的に調べる手法への期待が高まっています。

注1.表現型創薬
細胞の形態学・生理学・生化学的な特徴(表現型)を望ましく変化させる化合物などを選定し、その薬効を評価することで新たな薬を創り出すプロセス。当社では全遺伝子発現プロファイルの変化を細胞表現型の変化と捉え、その情報を取得・解析する。

課題:従来の創薬スクリーニングの限界

現在多くの創薬プロジェクトで採用されている標的ベーススクリーニングは、体内の標的タンパク質に薬剤候補物質が結合するかどうかを調べますが、研究対象となりうる標的物質の枯渇や、臨床外挿性が低く、開発途中でのドロップアウトのリスクを低減しにくいといった課題があり、上記の新薬開発コストの肥大化に繋がっています。 一方、表現型創薬については、表現型の評価自体が難しく適用できないケースが多く、全遺伝子レベルで評価する場合には高コストとなりスクリーニングのスループットが低いといった課題がありました。

解決手法1:表現型創薬の実施

当社は大規模トランスクリプトーム解析技術を活用することで、複雑な細胞表現型の全遺伝子発現プロファイリングを、従来技術対比10-100倍のスループットで行うことが可能です。全遺伝子発現プロファイルから細胞内のパスウェイへの影響も包括的に捉えることができるため、有効化合物の選定や副作用の評価、さらにはメカニズムやターゲットの推測も可能になると期待されます。

解決手法2:患者層別化バイオマーカーの同定

医薬品の開発成功率を上げるためには、薬剤が奏功する患者とそうでない患者を区別できる患者層別化バイオマーカーが有用となります。当社は大規模トランスクリプトーム解析技術と情報科学技術を活用することにより、患者層を区別可能な遺伝子や細胞集団比率を包括的に解析し、層別化バイオマーカーを同定することが可能です。

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Regenerative Cell Medicine

再生医療の高品質化

背景1:生きた細胞で治す夢の医療

再生医療は、「生きた細胞」を移植することによって、病気やけがが原因で機能が損なわれた組織や臓器を再生し、元の状態に回復させるという驚異のポテンシャルを秘めた医療です。その潜在的な適応範囲は広く、これまで治療法がなかった難病、回復が見込めなかった脳梗塞や脊髄損傷などの後遺症、継続治療が必須で肉体・時間・金銭的負担が大きい糖尿病などの慢性疾患、臓器移植が必要な疾患など、多くのアンメットメディカルニーズに応えられる治療法だと考えられています。

背景2:国をあげた総力戦

再生医療への期待は非常に高く、我が国では産学官が協力して連携を強化しています。産業界では、参加企業250社を超える業界団体である再生医療イノベーションフォーラム(FIRM)が中心となり、再生医療の早期普及、産業化のエコシステム構築、国際競争力の獲得へ向けて精力的に活動しています。学術領域では、日本再生医療学会を中心に研究レベルでは世界をリードし、研究成果を臨床へつなげる試みが推進されています。政策面では、AMEDにより毎年150億円の巨額な研究開発費が予算化されています。また国民が迅速かつ安全に再生医療を受けることができるようにするため、2014年に再生医療新法および改正薬事法が施行され、規制面においても大胆な法整備が行われています。再生医療の潜在的市場としても、2030年に12兆円 (国内1兆円)、2050年に38兆円 (国内2.5兆円) と試算され、短期間の爆発的伸びが予測されています。

課題:細胞の品質ばらつき

再生医療で用いる細胞医薬品を製造するためには、細胞の「培養」という工程が必要です。培養とは、細胞種類に応じた生育環境で、細胞を医薬品として必要な数まで増殖させることですが、生きた細胞は非常に複雑なシステムであり、培養条件 (培地、足場など)、培養操作、培養工程などの培養環境の影響を受け、ばらつきが生じやすく、取扱いが難しいという性質があります。細胞医薬品の品質に影響を与える細胞のばらつきをどうコントロールするかは、再生医療の重要課題です。

解決手法1:細胞の品質管理の高精度化

これまでは再生医療等製品の細胞が正しく製造できたか否かを判定する品質試験が明確でないケースが多く、製品が全て均一に高品質であると判断することが難しい状況でした。当社は1細胞レベルのトランスクリプトーム解析技術を用いることで、対象とする細胞集団がどのような細胞から構成されていて、どのような指標遺伝子がその細胞を特徴づけているのかを正確に分析できます。この情報を用いれば高精度な品質試験を立案することが可能となり、ばらつきの少ない高品質な細胞製品の製造、コスト削減に直結します。

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解決手法2:培養条件の最適化

もう一つの解決方法は、製造時に生じるばらつきを、根本的に小さくすることです。上記のように、細胞の製造の良し悪しを精度良く判定できる指標が定まれば、その指標を活かすことで、細胞の製造工程である「培養」を改善していくことが可能になります。当社は溶液化学とロボットテクノロジーを用いて非常に多くの種類の培養条件を作出し、大規模トランスクリプトーム解析技術と人工知能技術により、目的細胞をより活性の高い状態で増殖させる培養条件を探索します。条件の選定には、コア技術で同定した指標遺伝子が大いに役立ちます。創出した培養条件で培養を行うことによって、これまで継代を繰り返すことにより、機能活性や増殖性を失っていた細胞が、より長く、より多く、より安定的に増えることが可能になり、結果として、ばらつきが減り、ロット間差が小さい細胞製造につながります。また、ロットアウト品の解消や生産性の大幅な改良による製造コストの低減にも貢献します。本技術については、2021年現在、完成を目指して開発を進めています。

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